ねこラム

がじゅまるの木 ~31日の看猫(かんびょう)日記~ 第九回:光


 

初めて耳にする「強制給餌(キョウセイキュウジ)」という言葉は私を戸惑わせました。

「これからやり方を見せますね」

スタッフの女性がアルミ容器に入ったペースト状の猫用フードを奥から持って現れました。
慣れた手つきでプラスチック製のシリンジをぷすりと突き刺すと、筒の部分いっぱいに薄茶色のフードを吸い上げました。彼女はキナコの背後に回り、口の横からシリンジを差し込みフードを少しづつ口の中に入れていきます。押し込まれたフードを、案外キナコは素直にくちゃくちゃと咀嚼して飲み込みました。

「あ、食べますね」

スタッフが安心したように頷きました。『強制』という言葉の響きから、いかにも押さえ込んで無理やり食べさせるようなシーンを想像していましたが、あくまで猫自身が自力で飲み込むことを促すというもので私も安堵しました。

「ちょっと、やってみてもいいですか?」

自ら申し出てシリンジを受け取りました。真似をしてシリンジの先をぷすりと差し込みフードを吸い取りましたが、何度試しても空気が入ってしまいます。
筒をいっぱいにすることはできませんでしたが、半分くらいは吸い込むことができました。

くちゃくちゃ・・・

キナコは頑張って食べてくれました。

サポート食は高カロリーなため、容器半分程度の量でも一日に必要なカロリーが摂取できます。私はサポート食を三つほど買い求めました。帰宅後、早速インターネットを開き、使い勝手の良さそうなシリンジも数種類注文しました。

まだ秋口のころ

まだ秋口のころ

治療が始まって十日余り。症状の悪化に伴い、自宅で行なう治療の種類は以下の四種類に増えていました。

1.まずはブドウ膜炎による炎症を抑える目薬

2.風邪による角膜炎を抑える目薬を二種類。(一日三回)

3.その合間を縫って、ステロイド錠剤の投薬。

4.さらに強制給餌(一日数回)

どれもキナコにとっては疲れるものに違いありません。
病院からは、目薬だけはストレスになるから頑張りすぎないで欲しいと念を押されていました。
実際、目薬はよほど苦痛らしく、わずかな力を振り絞ってでも私の腕からすり抜けて逃れようとします。
貴重な体力を奪うようで私も気が進みませんでした。

キナコが寝入ってしまったのを見届けてから自室で用事をしていますと、ふと、洗面所のほうからカタリ・・・と物音がしました。キナコには洗面台に置いたコップで水を飲む習慣がありました。
シンガプーラは猫の中でもとりわけ運動神経が良い種類として知られています。元気いっぱいの子猫の頃のキナコはそれこそ手が付けられないほどでした。
天井まで突っ張ってあるキャットタワーのてっぺんから床に飛び降りたり、逆に床から直でクローゼットの一番上にある棚に軽々と飛び上がるなどの芸当は朝飯前でした。

病気がわかってからは、餌置き場のすぐ近くに水飲み場を二か所用意するようにしましたが、キナコは変わらず洗面台のほうを好みました。しかし駆けつけてみると、その日のキナコは洗面台の下で何度も何度も右へ左へと動き、目測を繰り返してうろうろしていました。
嫌な予感がしたので、私はキナコを抱きかかえ、さんさんと真昼の日光が差し込む窓のそばに連れていきました。普通は日光の下では糸のように細くなるはずの瞳が、黒く膨らんだままでした。顔の前で手を振ってみましたが、瞳孔はまったく動きません。

もしかすると、もうほとんど見えていないのかもしれない・・・・。

キナコから光まで奪わないで欲しい、心の底からそう思いました。

今まで飼った猫の中で一番のお転婆さんでした

今まで飼った猫の中で一番のお転婆さんでした

 

文/こしあんブルー

 

※FIPは研究途上で、まだ不明点が多い病気です。本文は筆者個人の体験談であり、病気の症状や進行には個体差があります。

※本記事は、記者の実体験に基づく記述ですが、それぞれの猫により状況が異なりますので医療行為については必ず獣医にご相談の上、進められますようお願いいたします。(猫報編集部)