ねこラム

がじゅまるの木 ~31日の看猫(かんびょう)日記~ 第八回:風邪の併発


 

ステロイドの効果で食欲が戻ったキナコの右目は改善しました。しかし安堵も束の間、今度は左目の奥に震えが見られるようになったのです。様子が良くなっているように見えても、ウィルスは確実にキナコの中で繁殖していたのでした。

早すぎる異変

二日後、ひときわ寒い2月の日、恐れていた異変は突然起きました。午前中まではパクパクと食事をとり、ふだんより元気に見えていたのに、午後からぱったりと食欲が消えました。いっさい何も食べず、寝室の布団の上で丸くなっているその口元まで餌を運んでいっても反応もしません。

大好きなペースト状のおやつを指につけて鼻先まで近づけると、のろのろと立ち上がり布団を掻き始めました。拒絶のサインでした。

「このところの病院通いで疲れちゃったかな?」

頭を撫でるとトロンとした目で私を見上げました。何とも言えないしんどそうな顔でした。夕方起きだしてきたキナコはまっすぐトイレに向かいました。

闘病が始まって初めての軟便でした。それからキナコは数時間おきにトイレを使い、その度ごとに便の色は薄く、柔らかくなっていきました。

少しでも体が冷えないように洋服を着せてあげました

少しでも体が冷えないように洋服を着せてあげました

風邪の併発

夜明け頃、かすかな鳴き声に目覚めました。肉球で右腕をこすられている感触があり、暗闇に慣れると、目の前に小さなシルエットが浮かびました。

枕もとの明かりをつけて部屋を見渡した私は驚きました。間に合わなかったのでしょう。ドア付近に設置したトイレの前で、キナコは粗相をしていました。血も混じっていました。几帳面なキナコは自分が失敗してしまったと感じ、私を起こそうとしていたのです。

翌朝、診察開始と同時に病院に駆け込むと、四十度近い熱でした。

「風邪をひいてますね」

せっかく増えた体重はすっかり減り、治療は早くも正念場を迎えていました。

「ステロイドで免疫を抑えていますから、別の風邪のウィルスにかかってしまったんでしょう。目の震えの状態から考えるとFIPも進行しています。それに加えて、風邪を併発しているというのが今の状態です。どちらを優先するかというのはとても難しい問題ですが、熱の高さや鼻のつまり具合から考えると、一旦ステロイドを切りましょう。そして今日から三日間、抗生剤の注射と点滴を打ちましょう。あと、湿度も大事です」

院長のアドバイス通り、加湿器を三台導入し、各部屋の湿度を常に70パーセントに保ち、コロナ菌の駆除に効果があるというと電機メーカーの空気清浄機も設置しました。
しかし、三日経っても、熱は下がりませんでした。

「うーん。風邪で目がつぶれた野良猫も、この治療を三日集中して行えば、良くなるんだけどねえ」

院長はいつにもまして渋い顔で頭を抱えました。
一番の問題は鼻のつまりでした。猫は匂いで食べ物の良し悪しを判断します。匂いがしないのが原因なのか、この三日間でキナコが口にしたのは大好きだったペースト状のおやつにドライフードを砕いて混ぜたもの、それもほんのわずかでした。治療を始めて十日あまり、厳冬によって風邪を併発したキナコの体力はガクンと落ちていました。

診察の結果、アズキは平熱に戻りましたが、つまりそれは他の猫に移るようなレベルの風邪ではないことを意味しました。通常では問題にならない弱いウィルスにキナコの体はこんなに痛めつけられている、それくらい免疫が落ちているのだと思うと、不憫でなりませんでした。
完治には至りませんでしたが、目や鼻が改善したところで、

「このままステロイドを切ると、今度はFIPのウィルスの方が強まってしまうから」

院長判断で、ステロイドが再開されることになりました。問題の食欲不振については、新たな治療法が提案されました。

「食べないのだったら、強制給餌を試してみましょうか。猫の場合、これはよく効く治療です」

「キョウセイキュウジ・・」

またもや初めて耳にする言葉でした。

2匹一緒だと、病院では2匹とも落ち着いていました

2匹一緒だと、病院では2匹とも落ち着いていました

 

文/こしあんブルー

 

※FIPは研究途上で、まだ不明点が多い病気です。本文は筆者個人の体験談であり、病気の症状や進行には個体差があります。

※本記事は、記者の実体験に基づく記述ですが、それぞれの猫により状況が異なりますので医療行為については必ず獣医にご相談の上、進められますようお願いいたします。(猫報編集部)